出演中の舞台、「明治一代女」。ついに、千穐楽である。劇中、本物の人力車を、引っぱって走るという危険を伴う役を担い、又、舞台終演後は、来月の舞台の稽古を抱えながらの本番。こうして無事に楽を迎えられたこと、感謝の気持ちでいっぱいです。スタッフの皆様、三越劇場の皆様、ありがとうございました。


 主人公、巳の吉の親友「市太」。主人公、お梅を人力車へ乗せ、浜町河岸の運命の名シーンへと誘う「車夫」の二役。どちらも、重要な役どころであり、且つ、全く人間性の異なる役を、同時に演じさせて頂いたことは、大変貴重であったし、役者冥利に尽きる。


 演出家、斎藤雅文先生は、毎日劇場に来られ、都度、細かい注文を頂いた。それは、役者として心熱くなる、モチベーションの上がる毎日であった。

 自分が必要とされている...。


 そして、もうひとつ。佐藤B作さんとの共演である。両役にわたって、真っ向正面で演技交流させて頂き、貴重な体験をさせて頂きました。


 「明治一代女」の打ち上げが始まっていた。私は次作の稽古を終え、途中から駆けつけた。座敷に入るなり、佐藤B作さんと市川春猿さんの間の席へ招かれ、B作さんより、熱い握手を頂いた。目の前には「一代女」お梅役の波乃久里子さんが座っていらっしゃる。酒を酌み交わしてはお芝居の話。 最高に楽しい酒、幸せな時間である...。


 「明治一代女」。この作品は、私の俳優人生において、「礎」となったことは間違いない。