東京は葛飾金町、個人病院を兼ねた二階建て一軒家「平山家」。時は昭和28年7月まだSLが走っていた時代である。
舞台は完成した。京都のど真ん中に東京の下町の家が立っている。観客席からまだ客入れ前に一人座り眺め、なんとも不思議な思いに駈られた。まさかこんな日が来ようとは予想だにしなかった。
初日。お芝居の世界ではこれほど特別な日はない。祭りのはじまりである。しかしそこには歓喜がただ存在するのではなく、緊張感とある種の恐怖に近い何かが(これは俳優それぞれの感覚の違いがあるが)、ない交ぜとなっているのが事実なのだ。扉を開いて出て行った先に、昨日までとは全く違った空間あるいは世界が待っているのである・・・。
初日公演を終えた時、いったい自分はどうなっているのであろうか。いつも抱く感情である。
そして今、その扉を開き大海原に飛び込んでいくのである。