老いた舞姫。
 
 
 
■ スプリング・コートを羽織った女性が、ブロード・ウェイから脇に入った路地でダンボールを蹴っている。
 始めはダンボールだけが動いているのが見えた。
 なんだろうといぶかしく、足がとまる。
 夜の十二時過ぎ。眼がなれてくると、そこに一人の女性がいて、それは老女と呼んでもいい横顔だった。白人らしい。
 子どもがサッカーのボールを追っていくかのように、彼女は飽きることなく茶褐色の箱を追いつめ、それをミドルのヒールで蹴っていく。靴はまだ新しい。
 結構な力が入っていて、踵が折れやしないか他人事ながら心配になった。
 ぽこん。ぽこん。しばらく置いて、ぽこん。
 いや、音には濁点がついていて、空きっ腹には少し堪えた。


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