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シナトラのカツラ | Newsletter No.010

 
    シナトラのカツラ。
 
 
 
■ 棚から一冊の本が落ちてきて、ぱらぱらめくっていた。
 Mike Royko の「男のコラム」(井上一馬訳:河出文庫版)である。
 この本については何年か前の緑坂に書いたことがあって、再掲してみる。
 
 
■ シカゴ・トリビューン誌のコラムニスト、マイク・ロイコの作品集「男のコラム」(河出文庫)を一気に読んだ。
 ロイコは、1932年シカゴに生まれる。高校中退。
 
 
 
■「男のコラム」という題名がなんとも、ではあるのだが、この毒舌とユーモアのセンスは、アメリカの最も良質な庶民の目線である。
 NYに対する子供じみた憎悪。それはシカゴのひとたちは皆同じだと。
 社会運動を熱心にやっていた頃のジェーン・フォンダへの揶揄。
 そして、シナトラがロイコのコラムに対して圧力をかけてきたことへの返答が、例えば以下の如し。
 
○もし君が自分のまわりにはチンピラがひとりもいないというのであれば私はその言葉を素直に信じて遺憾の意を表明したい。もちろんあの手紙を運んできたチンピラにも同じように遺憾の意を表明する。
(「男のコラム」マイク・ロイコ:井上一馬訳:河出文庫:83頁)
 
 つまりまあ、シナトラがロイコに対して記事の訂正を求め、カツラじゃないよ訂正したまえと言ってきた訳である。もし髪をひっぱっても動かなかったら、10万ドル出せよな、コラ。
 それに対してロイコは、問題はもし髪が動いてしまったらどうするかと提案する。
 
○10万ドルのことは忘れてもらって構わない。その代わりに君の蝶ネクタイをひとつと「ブルースの誕生」のレコード原版を貰いたい。いまでも私は、あれが君の最高の曲だと思っている。
(前掲:85頁)
 
 
 
■ エバァ・ガードナーとの恋に疲れていた頃のシナトラは、男の色気があった。ロイコはそれを言っているのである。当時、皆シナトラの格好を真似していた。
 一派をなし、ある意味でボスになってしまったシナトラに対し、一歩も引かないで自分の分野で勝負をかけている。
 シカゴという街。そこで生まれたひとつの文化。
 これは、雑誌「ニューヨーカー」と並べて眺めるとまた違った味がでてくる。