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野生の馬 | Newsletter No.003

 
    - Breakfast at Tiffany's 5.-
     野生の馬。
 
 
 
 
■ 冬になると、ストーンズが聴きたくなる。
 新しいものではなく、いくつかのバラードの入ったそれで、低く流しながら表参道の交差点手前で信号を待っている。街はクリスマスの飾り付けで赤く、そして青い。
「WILD HORSES」という曲があり、イントロだけで十分な気がしていた。
 ストーンズの場合、イントロがほぼ全てというところもある。
 
 
 
■「ティファニーで朝食を」でよく引かれるのが、「決して野生の動物をかわいがってはいけないわ」という台詞である。
 新潮文庫版の背表紙にはこんな風に書いてある。
 
「名刺の住所は『旅行中』、かわいがっている捨て猫には名前をつけず、ハリウッドやニューヨークが与えるシンデレラの幸福をいともあっさりと拒絶して、ただ自由に野鳥のように飛翔する女ホリー・ゴライトリー。原始の自由性を求める表題作(略)」
(1968年版:54刷より)
 
 映画の影響か、女性読者を意識した紹介文である。
 ホリーを高級コールガールとは決して呼ばず、「プレイガール」などと記している映画案内なども多い。訳者の龍口氏も解説の中でわざわざ一節をそうしたホリーへの評価について割いていた。

透明な子 | Newsletter No.003

 
    - Breakfast at Tiffany's 6 -
     透明な子。
 
 
 
■ カポーティは1924年に南部の町、ニューオリンズに生まれた。
「サンダーバード号で見た南部」という作中の書名はそんなところから来ているのかも知れない。NYでは一時ある種の遊び人として社交界に話題を提供する。
 本作は、マリリン・モンローをイメージして書かれたものだったという。
 マリリンも若くして一度目の結婚をしている。
 モンローといえば「バス停留所」などにもあるように、流れ者の気のいい踊り子という役柄がとても似合う。
 昔「鬼怒川マリリン」というストリッパーが日本にもいたという嘘もあるが、そのような伝説や亜流が生まれてもおかしくはない。
 日劇マリリン。北千住マリリン。
 遺作「荒馬と女」なども、そうした役柄だった。
 それらの個性は、手繰ってゆくとかなりの部分が彼女の生育歴から来ているものだが、ハリウッドやNYというのはアメリカの中でも特別な場所、ある意味でアメリカではないのだという指摘もあって、半ばはその通りかも知れないと私も思う。
 
 
 
■「ティファニーで朝食を」の原作にはこんな場面がある。
 ホリーと作家の卵ポールが南京町、つまりチャイナタウンからブルックリン・ブリッジをぶらぶらと歩き、夜景を眺めながらホリーが言う。
 
「今から何年も何年もたったあと、あの船のどれかがきっとあたし、いいえあたしとあたしと九人のブラジル人の子供を、またこのニューヨークへつれて帰ってくれるとおもうわ(略)あたしニューヨークが大好きなのよ。樹だって通りだって家だって、何ひとつほんとにあたしのものというわけじゃないけど、でもやっぱり、なんとなくニューヨークが自分のもののような気がするわ。だってこの街は、ぴったりわたしの性に合ってるんだもん」
(前掲:120頁)
 
 NYが自分のもののような気がする。
 という台詞は、この街の特質を正確にあらわしている。
 夢と希望、それからなんだろうか。